ルクセンブルクをハブ空港とする貨物専門航空会社、カーゴルックス航空。2020年のIATA貨物航空取扱量ランキングでは欧州1位、総合6位の同社は、世界5大陸をジャンボジェットでつなぎ、グローバル物流を支えています。半世紀前に革新的な航空会社として誕生したカーゴルックス航空は、今やルクセンブルクを代表する企業の一つです。

同社の日本地区総支配人である岩田雅和さんにお話を伺いました。

(聞き手:松野百合子)

カーゴルックス航空 日本地区 総支配人 岩田雅和さん

1985年 関西大学法学部法律学科卒、1986年日本エメリ-航空輸送入社

1988年カーゴルックスジャパン入社

2001年カーゴルックスエアラインズ・インターナショナル・エス・エー日本支社

2010年カーゴルックスイタリア・エス・ピー・エー日本販売代理店兼職

2020年から現職

“カーゴルックスは昨年創立50周年。日本でも30年以上前から活動”

ー 本日は貴重な機会をありがとうございます。コロナ禍が続きますが、御社は現在どのような勤務形態ですか?

時差通勤やリモートワークを活用し、なるべく出勤者7割削減を目指しています。デジタルトランスフォーメーションを進め、在宅勤務やビデオ会議を増やしましたが、スタッフの創意工夫により業務に支障はきたしていません。社外の方々とはオンラインミーティングを通じて関係が深まったケースもあります。ルクセンブルク本社とのやり取りは、これまで通りです。

ー カーゴルックス航空は1970年設立のルクセンブルクをハブ空港とする欧州主要貨物航空会社ですが、どんな特徴がありますか?

昨年が創立50周年記念でした。50年前は、航空会社で貨物専門サービスを提供すること自体がユニークでした。私の前職はフォワーダーでしたが、カーゴルックス航空は飛行機よりトラック便数が多いことに驚きました。航空運送だけに留まらない非常に多面的サービスを展開していたのです。大型機で空港に貨物を集約し、そこから各拠点に分散運送する「ハブ&スポーク」方式は今では一般的ですが、当時は革新的で、先見の明があると感じました。

ー 飛行機で運ぶ、という業態に囚われる「シーズ発想」ではなく、サービスを受ける顧客目線でビジネスモデルが構築されていたんですね。最初は貨物のチャーター便だったというように伺いましたが。

はい、カナダのCL-44D42という貨物機で胴体の尾部が折れ曲がるために大型貨物が積めるものを使い、ルクセンブルクとニューヨークの間を運行したのが始まりです。

(写真撮影のためにマスクを外しています)

ー 現在の御社の航空貨物業界での位置づけをおきかせください。

IATAの2020年国際航空貨物取り扱い量ランキングで、当社は6位となり、ルフトハンザ航空やKLMエールフランス航空を抑えて欧州首位の座を獲得しました。これは、当社のこれまで最高の順位です。2019年の7位から順位をひとつあげたわけですが、これにはコロナ禍で他航空会社の旅客便の減少が影響しているのも事実です。

ー おめでとうございます。欧州トップの貨物航空会社になられたわけですね。旅客便の減少のお話がありましたが、コロナが収束しても、旅行や出張などの人の動きが元通りになるのか分かりませんね。出張もビデオ会議で置き換えられる部分が多いことも分かってきました。

精密機械メーカーは、以前は製品の納品先に点検のために定期的に出張していたのが、コロナでできなくなり、代わりにVRのヘッドセットを現場の人に装着してもらって遠隔で作業の指示を出すという方法を取るなどしていると聞きました。そうすると、たしかに現地に行く必要がなくなりますね。

ー カーゴルックスさんは日本にも1985年以来、定期便を就航させています。これまでの経緯を教えて頂けますか。

日本には最初、福岡空港に就航し、週2便運行していました。その後、1994年に石川県の小松空港に就航すると、東京、名古屋、大阪といった国際貨物の大きな市場へのアクセスが良くなり、さらに中部、北陸市場との結びつきが生まれました。利便性が大きく向上したこともあり、一時は最大週5便を小松・ルクセンブルク間で運行していました。

ー 現在では、小松に加え成田便もあります。

はい、成田・ルクセンブルク間は、2018年から日本貨物航空とのコードシェア便を週1便運行しています。また、グループ会社であるカーゴルックス・イタリアの定期便が成田・ミラノ間を週3回往復しています。成田は日本最大のゲートウェイ空港として重要な位置を占めていますので、本社も中長期的にオペレーションを広げていきたいと考えています。

ー 日本ではどのような貨物を扱っていらっしゃいますか。

現在では半導体素材関連、半導体製造装置関連、産業用ロボット、テック製品用電子部品、薬品関連、危険品、自動車部品、完成車輌、繊維関連等を主に扱っています。

“ヨーロッパの企業らしく、社会責任を果たすスタンスを強く打ち出しています”

ー ところで、このテーブルの上にシロイルカのぬいぐるみがありますが、御社の昨年の社会貢献プロジェクトを記念したマスコットですね?

これは、弊社がアニマルウェルフェア(動物福祉)に貢献したプロジェクトで、上海のマリンパークにいた2頭のシロイルカをアイスランド沖の海洋保護区に航空機で輸送しました。カーゴルックスはヨーロッパの会社らしく、早い段階から社会責任を果たすスタンスを強く打ち出しています。例をあげると、騒音数値や燃料効率が非常に良いBoeing747-8を世界に先駆けて発注していますし、また、グリーンカンパニーを標榜し、エアウェイビル(運送状)の電子化を推進し、各地のステーションごとの浸透率を定期的に確認しています。また、コロナ禍においては、ユニセフらが主導するCOVAXにも協力し、コロナウィルス関連の医療資材の優先運送などにも取り組んでいます。

ー 幅広いお取り組みに、企業としての社会貢献への本気を感じますね。

“ニッチな企業なので、特殊貨物や温度管理など日々努力”

ー イルカの運送で思い出しました。御社は動物など、普通旅客機のベリー(床下)スペースでは運ばないような珍しい貨物の実績が豊富でしたね。競走馬や、F1カーなどの例を聞いたことがあります。

そうですね(笑)。ジャンボフレイター(貨物専用ジャンボ機)という商業機としては最大の容量の機材を30機有して、グローバルネットワークでこの統一機材を運行できる我社ならではの、ワンストップでシームレスなサービスと言えます。

ー こうやって、競走馬たちはジャパンカップに来ていたんですね。

競走馬に関して言えば、馬を運ぶ専用のストールと呼ばれる箱があるのですが、弊社はコンパクトに折り畳めるものを用意しています。次に必要な仕向地に畳んで運べますし、収納スペースも取りません。こうした設備・資材も工夫しています。ニッチな企業ですから、日々様々な努力をしています。

ー 温度管理サービスもカーゴルックスさんの得意分野でした。

2013年にルクセンブルク政府、本社のハンドリングを行うルックスエアと協力し、EUの保健当局が認定する医薬品流通にかかるライセンス、GDP(Good Distribution Practice)をエアラインとして初めて取得しました。このとき、空港の上屋の機能・設備など全て刷新され、広範な温度管理ができるようになりました。温度管理のできる上屋スペースと航空機のランプの最短距離は約100メートルなので、温度の逸脱は極めてまれです。我社はルクセンブルク空港をハブとしてクールチェーンサービスの提供に自信を持っています。

“コロナ禍でも運行を継続し、日本で再評価されたように感じます”

ー 日本市場で御社はどのような位置づけにあると思われますか。

今回のコロナ禍でも、様々な工夫によって定期便の運行を継続できたことによって、弊社のプレゼンスが日本市場で再認識されたように感じています。実は、コロナの入国規制により飛行機のクルーの交代ができなくなるケースが発生し、パンデミック当初は運行継続自体が非常に困難でした。当社は、世界各地の入国管理状況をそれぞれ確認し、入国可能な国を経由する新ルートを探し出してクルーを交代させたり、予め予備のクルーを搭乗させて飛行機から誰も降ろさずに交代させたり、何とか乗り切りました。カーゴルックスには、良いアイディアは試してみる、という気風があるので、こうした対応ができたように思います。

ー 日本市場でのご苦労があるとしたら、どのような点でしょうか。

過去には、運輸権(トラフィックライト)の獲得で苦労してきましたが、2017年に日本貨物航空とのコードシェア便運行で成田空港にも入れることが決まり、前進しています。さらなる運輸権や第5の自由(*航空協定において、第三国にて貨物の積み下ろしをする権利を指す)を獲得し、日本での事業を発展させていきたいと希望しています。さらに、日本とルクセンブルク間の航空協定にまで高めて行ければ理想です。会社としては、日本事業の基盤強化し、日本のお客様と共に発展していけるような関係を目指したいと思っています。

2018年3月の成田空港就航記念式典

ー お客様と共に発展というのは、具体的にどのようなイメージでしょうか。

例えば、日本の貨物市場で価格が安いとき、その値段で販売しようとすると他のアジアの国発の貨物の値段に負けて、私が当社内のスペースの取り合いで買い負けすることがあります。日本のお客様にはありがたくない話だと思いますが、こうした事情は正直にお話しするようにしています。

ー そのかわり、普段継続して貨物を出してくださるお客様のためには、岩田さんが社内のスペース獲得競争で一肌脱ぐとか?

そうですね(笑)。日本は欧米やアジアを含む海外と商習慣が異なり、貨物キャパシティを契約する文化がなかなか根付きません。海外ではお客様が物量を航空会社がスペースをコミットし、双方の利益の最大化を図るのが一般的です。外資系航空会社として異なる商習慣、ビジネス環境を理解することの重要性も学んでいます。

ー 今後の日本の航空貨物市場をどうご覧になっていますか?

注目しているのは、日本の製造業の競争力と世界のトレンドへの対応です。現在、米中対立が貿易から安保まで拡大しつつあり、日本のバランスのとり方が製造業物流に影響を与えます。世界に、米中それぞれを中心にした2つの経済圏が生まれる可能性があります。

“カーゴルックスは多様性が豊か。ルクセンブルクは知名度より実力が勝る”

ー ところで、岩田さんは入社30年以上とのことですが、入社して印象深かったことはありますか。カーゴルックスはどんな社風の会社でしょうか。

当社に入って、まず意思決定が速く柔軟だという印象を受けました。また、社員に多種多様な人がいてダイバーシティが豊かです。入社してすぐに営業としてとても大きな裁量と責任を与えられ、自分も会社の顔として頑張ろうと思いましたね。進取の気性があり、色々なことに挑戦できました。

ー ルクセンブルクを初めて訪問された時の印象はいかがでしたか。

30年ほど前ですが、私にとって初めてのヨーロッパでもありました。ルクセンブルクの街並みはとても落ち着いていて、ゆったりとした時の流れを感じます。その後、訪れたパリやロンドンのような街とは違う個性があります。ルクセンブルクの人々は穏やかでフレンドリーです。多様性を受け入れる国民性なのか、当時は珍しかった東洋人の自分にも、道を尋ねると親切に教えてくれました。

本社での社内トレーニングの3日目に、「社外ミーティング」しようと外に連れ出されました。行った先はパブで、ハッピーアワーで飲み物が半額です。その時に飲んだボッフェルディングという地ビールが、とても美味しかったのを覚えています。ルクセンブルクを訪問するたびに、現地のリースリング品種の白ワインや、オーバーバイスのチョコレートなど、美味しいものの発見があります。ルクセンブルクの会社で働く者として、こうしたルクセンブルクの名産品を日本でも広めたいと思います。

ー とてもありがたいお話です。ルクセンブルクという小さな国の企業の代表でご苦労も多いかと思いますが、こうして盛り上げて頂き嬉しいです。

ルクセンブルクという国は日本であまり知られていませんが、早い時期から金融立国として身を立て、欧州通貨統合の参加条件をいち早く満たすなど、知名度より実力が勝っています。ルクセンブルクの元首相であるユンカー前欧州委員長の活躍や、世界最大手の鉄鋼会社アルセロール ミタルの本社の存在など、お客様とお話する際に「実はすごいんですよ」と自慢しています。

日本の皇室とルクセンブルク大公家の親密な交流もあり、ルクセンブルク籍の企業で勤務できることを誇らしく思っています。

ー そのように思って頂き、大変光栄です。

本日はお忙しい中、貴重なお話をお聞かせ頂きありがとうございました。今後の益々のご発展を祈念しております。

(写真撮影のためにマスクを外しています)

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